記事→昨日夕方の厚労省・薬食審・再生医療等製品部会で、CAR‐T(製品名キムリア、ノバルティスファーマ社)の国内販売が承認されました。
まずは、昨夜のNHKニュース(動画ニュース)をご覧ください。
「最新のがん免疫治療CAR-T細胞療法、国が承認へ」NHKニュースweb2月20日21時24分(3分12秒)
→https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190220/k10011821971000.html
今回承認されたキムリアは、「CAR―T(カーティ)細胞」を用いた免疫細胞を活用して主に血液がんを治療するバイオ医薬品(治療法)です。
ノバルティスファーマ社の製品で、3月には正式承認される予定です。
1、まず、この薬の評価ですが、
がん免疫療法で認可されている薬剤において、オプジーポやキートルーダといった免疫チャックポイント阻害剤のグループ、すなわちブレーキ系薬剤に対して、キムリアは免疫細胞そのものを改変・強化してがん細胞と戦わせて叩くというアクセル系薬剤です。この種類の薬剤が我国においても承認されることは、がん免疫療法の地位がさらに一層認知されていくということにおいて、歓迎すべきだと思います。
2、ただ、いいこと尽くめではありません。
(1)一つ目は、薬剤の効能についてですが、
薬の副作用で、過剰な免疫反応を起こすサイトカイン放出症候群が起き、高熱や嘔吐などが生じる場合があると報告されています。
また、臨床試験では、投薬と因果関係が否定できない死亡例も数例出ているとのことです。
さらに、一度輸注すると患者体内に生着して増殖し、免疫監視を促進する永久的な「生きた薬剤」になるといわれていますが、再発リスクも懸念されており、また固形がんに対してはまだまだ未知数ですので、少なくともオールマイティの夢の薬剤には遠い道のりが残っています。
予定では、今後治療可能な医療機関は全国で約200施設に特定されるとのこと。
(2)そして、注目されているのは、その効能だけでなく、日本では5千万円近いといわれているその高価な価格です。
厚労省の昨年10月の試算によると、キムリアの市場規模は100億~200億円程度(投与対象となる患者はピーク時で年計約250人)とのことです。過去にはC型肝炎薬で年間1000億円を超えたこともあり、キムリア単体では過去の事例を大きく逸脱するものではありません。
しかし、本庶佑氏のオプジーポ以降、がん免疫治療での高額医薬品の認可が今後も続くと予測されており、サイエンスの進歩とは裏腹に、皆保険制度を何とか堅持してきた日本の医療制度が、見直しを迫られています。
先行する米国では、17年10月に承認された「イエスカルタ」に約4200万円、網膜疾患の治療薬「ラクスターナ」は約9700万円の値がつきました。これらの医薬品も日本国内で今後認可されていくとすれば、皆保険制度の見直しは急務です。
日本の公的医療保険は自己負担が3割ですが、高額療養費制度があるので、例えば、月5000万円の医療費がかかり3割負担(1500万円)しても年齢・年収などにもよりますが、70歳以下・年収700万円であれば、自己負担は約60万円で済むというのが現状の制度です。残りの4,940万円は結局は税金や国庫で賄うことになります。
該当する患者さんには大変失礼な言い方ですが、年間約200~250人の該当する患者さんに一人につき約5000万円という高額なお金を国庫等から支払うことは、果たして公平なのかどうか疑問にも思います。国からの何の補償もなく悲惨な病気や事故でお亡くなりになる国民は数えきれないほど、、、です。そのことと5000万円との関係は?という疑問もあります。
従来は2年に1回だった薬価の見直しを高額薬に限り四半期に1度に頻度を高めたことで、オプジーボは当初の価格から半額以下に下がりました。
欧州では、薬品の認可する際の要素として「経済性」も重要な要素として議論されます。例えば英国では、イエスカルタの価格が高いため、認可はするが公的医療保険の対象から外しているという例もあります。
本論から少々離れますが、貧富の差により、フェラーリと国産車に分かれるのは仕方ないとしても、人の生き死にが所得水準で大きく分かれるというのは、仕方ないと諦めざるを得ないのでしょか。
公的医療保険制度を維持するには、全額自己負担できるような軽度な症状向けの薬品を(所得に応じて)保険適用から外すなど、思い切った制度の見直しが必要かもしれません。
今後、がん免疫療法が、セカンドLINEからファーストLINEに格上げされていけば、対象となる患者数はどんどん増えていきますので、そのシミュレーション(コスト増)も必要です。
3、ブライトパスとの関連性
ブライトパスの投資家から見ると、今回のCAR‐Tの認可は追い風と見ます。
CAR‐TとiPS‐NKTを比較してみますと、
・自家(患者自身の)由来免疫T細胞を遺伝子を改変・強化して患者体内に戻すのが「CAR‐T」
・他家(健康な他人の)由来免疫NKT細胞をiPS細胞で大量に増やして患者体内に戻すのが「iPS‐NKT」
です。
基本的なロジックは「体外で免疫細胞を改変・強化(増大)してから体内に戻してがん細胞をやっつける」というものですから、両者は、同じロジックのがん免疫療法と言えるでしょう。
このロジックの有効性を厚労省も認めた、ということです。このことはブライトパスにとっても朗報です。
現状のCAR-Tは患者自身のT細胞を原料とする「自家」CAR-Tですので、「時間とコスト」がかかります。より安価でより迅速な対応を実現するには、「他家」のCAR-Tの作製技術を確立する必要があります。
一方、iPS‐NKT細胞は、もともと他家由来ですから「時間とコスト」では「自家」に対抗できます。
「他家」で懸念されていた拒絶反応やがん化の課題については、「がん細胞をやっつけたら拒絶反応によりiPS‐NKT細胞は体外に出るので、拒絶反応やがん化の課題はクリアーできる」という弱点を逆手に取るという青写真ですが、ただ「iPS細胞は拒絶反応が弱い」との報告もあり、この辺りはまさに臨床試験を実践していく中で明らかになってきます。
しかしながら、「時間とコストの課題」は「他家」の方が克服しやすいのは明らかです。
患者自身の弱り切った免疫細胞を強化するのは容易ではないし、時間がかかっては病状は悪化して手遅れになります。さらに桁外れの高額となれば、国庫をパンクさせるか、大金持ち用のスペシャルなお薬となってしまいます。私見ですが、やはり「他家」で「迅速・安価」を実現しなければ、真の国民のための薬とは言い難いのです。
山中伸弥先生が「健康な第三者のiPS細胞を潤沢にストックして各アカデミアや研究所に安価で供給する」という「iPS細胞ストック事業」を提唱する理由も、まさにここにあるのです。
まだまだ、iPS‐NKTの前途は山あり谷ありだと思いますが、ブライトパスと理研の進めるこのプロジェクトは依然として魅力的な取り組みと言えます(私見)。
また、ご参考まで米国の健康保険制度についての参考資料を貼っておきます。→